Lectures from Memezawa Medical Clinic

第20回江戸川医学会発表(2002.11.10)

トリプタン剤登場以後の片頭痛治療成績

目々澤醫院
日本医科大学第二内科(日本医科大学付属千葉北総病院脳神経センター)
目々澤 肇

 昨年8月、片頭痛治療内服薬としてsumatriptan(商品名イミグラン)とzolumitriptan(商品名ゾーミッグ)が発売された。本剤はエルゴタミン製剤などの以前からの片頭痛薬と異なり、副作用としての嘔気の出現も少なく、痛みが始まってからの投与でも有効であるなどの利点を有し、有効性も高い。しかし、一般医レベルではコストへの抵抗や効果への疑問があり、充分に普及しているとはいえない。この理由として、1) 薬価点数が高い、2) 片頭痛の診断が困難(緊張性頭痛との鑑別、あるいは混合性頭痛に対する指導の問題)、3) 血管収縮剤であるため狭心症などの誘発の可能性がある、などの点が考えられる。筆者は先の2剤の治験に関わり、発売当初より二つの施設にて症例に使用してきたため、使用経験をまとめ、報告する。

対象と方法:
 目々澤醫院および日本医科大学千葉北総病院神経内科外来を訪れた片頭痛患者連続26例(女性24例、男性2例、年齢19〜55歳)。平均年齢35.2±9.6歳。診断は群発頭痛1例、混合性頭痛(緊張性頭痛の要素を含む片頭痛)12例、片頭痛13例であった。脳腫瘍などの器質的疾患の有無につきォ全例に対し頭部CTもしくはMRIにて検査を施行し、異常ない症例のみを採用した。投与薬剤の決定はランダムには行えておらず、注射薬や併用薬の使用に関しても症例の必要に応じ決定した。
 トリプタン剤として、上記イミグラン錠とゾーミッグ錠、先年発売されていたイミグラン注のほか、本年4月に発売されたeletriptan(商品名レルパックス)の3製剤4剤形を使用した。片頭痛発作の間歇期にはlomerizine(商品名ミグシス/テラナス、カルシウム拮抗剤)・fluvoxamine(商品名デプロメール、SSRI)・葛根湯(ツムラ#1)を併用した例がある。
 効果判定は、15〜30分で片頭痛が消失したものを「著効」、30分〜2時間以内に片頭痛が消失または軽快したものを「有効」、それ以外を「不効」とした。症例自身から報告がなかったものを「効果不明」とした。統計学的手法による効果の比較は行っていない。

結果:
1)トリプタン剤の注射製剤(イミグラン注)は3例に使用した。うち2例は著効し、約15〜30分で片頭痛が消失した。1例は30分で片頭痛は軽快し、帰宅後普通に家事が可能であった。著効例のうち1例はその後も2〜3ヶ月に一度、強い片頭痛が生じるたびに来院し注射を受けているが、それ以外は内服トリプタン剤で良好にコントロールされている。著効例のもう一例は注射による治療を4回ほど施行した後、強い片頭痛が生じなくなった。
2)イミグラン錠は9例に使用した。5例は30分〜2時間以内に片頭痛が消失し、有効と判定した。ただし、有効例のうち1名は服用しても効果不十分なことがあり現在もイミグラン注を希望して来院することがある。また、1例は1錠の内服では効果がなく2錠めの追加により軽快した。不効例は2例であったが、のちにゾーミッグ錠を投与したところ有効であった。効果不明は2例だった。
3)ゾーミッグ錠は21例に使用した。16例はすべて1錠の服用で片頭痛が消失、もしくは軽快し、有効と判定した。このうち2名はイミグラン注の経験者だが注射希望は減少した。不効例は2例であったが、のちにイミグラン錠を投与したところ有効であった。効果不明は3例だった。
4)レルパックス錠は1例のみ使用した。症例はすでにイミグランを経験済みで、2錠服用して軽快するものの満足感が得られていなかった。本剤を使用したところ、やはり1錠では不効で、2錠服用の必要があったが、片頭痛軽快にさいしより好感がもてたとのことで以後頓用は1回2錠とした。この服用法で充分な満足感が得られている。
5)間歇期に投与したミグシス/テラナスは8例に使用した。7例は片頭痛発作の頻度を減少させた。1例は、服薬のタイミングがとれないとのことで効果不明だった。SSRIのデプロメールは使用例1例で、不効であった。また、葛根湯は有効4例では発作間隔の延長を認めた。不効は1例、効果不明1例であった。
6)群発頭痛の1症例は効果不能であった。混合性頭痛の症例は生活指導として体操の実施とマッサージ・湿布の必要に応じた処置を説明し、トリプタン剤の使用は主としてこめかみ・前頭部の拍動性の頭痛があった時に限らせておいたとニころ、13例中11例で有効であった。純粋の片頭痛ではトリプタン剤は12例中10例で有効であった。両郡とも、製剤・剤形による効果の違いはあるもののいずれかの剤形では有効性を認め、不効であった症例はみられなかった。混合性頭痛の群ではNSAIDsの併用もしくは頚や後頭部のズキズキする痛みがあった場合の使用をさせたところ全例で有効であった。しかし、どうようの条件で純粋片頭痛群にNSAIDsを使用させたところ、4例中1例しか有効でなかった。

考案:
 純粋の片頭痛でも、混合性頭痛の場合でもこめかみ・前頭部を主とする拍動性の頭痛においてトリプタン系製剤は有効度が高いものと考えられた。片頭痛治療の場合、嘔気への対応が重視されるが、エルゴタミン製剤を使用していた過去の経験と異なり、今回のトリプタン剤での治療テではことさら鎮嘔剤の必要な症例はなかった。これは、水なしで服用可能なゾーミッグRMが追加発売されたことからいっそう患者の利便性が増したと考えてよい。また、注射剤にせよ内服剤にせよトリプタン剤を使用した症例は片頭痛発作の頻度が減少している。これは、エルゴタミン盗サ剤の使用経験のある症例ほど明瞭に証言している。また、経口トリプタン剤においては、1剤において効果がなくとも多剤によって有効というケースが4例あり、相性と考えられる部分があることも判明した。
 しかし、投与に関してはいくつかの注意点がある。注射剤につき、初期の投与例で「気が遠くなる」「フウーとする」などの訴えを有する症例を経験しており、投与はすべてベッド上で行っている。同様に、経口剤の使用でも「首のあたりがスースーする」「冷汗が出そうな感じ」などの報告があり、やはり服用時には椅子にすわる、ソファで横になるなどの指導を行ったところ、特に問題は生じていない。自宅で服用するチャンスが多いせいか、「うとうとして目が覚めると痛みがなくなっていた」などの報告も多い。したがって、トリプタン剤が血管収縮性を有することから、薬剤服用後も労作を続けることは望ましくないと考えられる。
 ミグシス/テラナスによる間歇期治療も片頭痛発作頻度の減少に有用であった。葛根湯は主として若年の緊張性頭痛に有効とされているが、片頭痛の間歇期治療にも有用であった。これらの薬剤による間歇期の治療は、発作が生じた際のトリプタン剤の使用頻度を少なくする効果がェあり、今後これまで以上に推奨されてよいものと考える。デプロメールについては、症例数が少ないため考察を控えたい。
 NSAIDsは、主として混合性頭痛の症例の緊張性頭痛の際に有効であったが、純粋の片頭痛ではさほどの有効性が認められなかった。
 ゾーミッグの有効例のうち1例に問題と考えられる症例があった。44歳、女性。以前のセデス(フェナセチン配合)は効果あったが現在のセデス(アセトアミノフェン主体)は不効であり、カフェルゴット(エルゴタミン製剤)は効果あったものの服用タイミングを外すと不効であった。今回、イミグランを使用すると眠気が強いため継続を希望せず、ゾーミッグ使用後30分前後で軽い眠気、一休みすると頭痛解消するため、いっけん有効であるようにみえた。しかし、時間経過と共にゾーミッグ使用量が増加し、トリプタン中毒のおそれがあるためロメリジンの間歇期投与を開始した。効果はあり、ゾーミッグの使用頻度が下がった。これは、昨年の頭痛学会でOlesenが指摘した慢性片頭痛のうち、トリプタン中毒にあたる症例と考えられる。
 今回の検討中、頭痛を主訴として来院した症例のうち、画像診断にて除外した症例があった。29歳、女性で、左側頭部に拍動性頭痛を訴えていた。よく問診すると、当日朝より右視野が黒くなり、右半身にしびれを有するとのことで、MRIを撮影したところT2および拡散強調画像にて左後頭葉に小梗塞を確認したため、脳梗塞と診断し入院管理した。精査したところMRAおよび3D-CTAにおいて左後大脳動脈起始部より1cmのところに動脈瘤解離腔によると思われる血管狭窄像をみとめた。したがって、解離性動脈瘤による小梗塞が原因の症状と診断された。このような症例は見逃されると一命にかかわる恐れがある。
 このほか、頭痛外来で通院中の症例の中にも脳腫瘍や脳血管障害の見逃されているケースが報告されており、できれば頭痛で初診された症例は、経過中に一度はCTやMRIなどで頭蓋内スクリーニングを行うことが望ましいと考えられる。

まとめ:
 トリプタン製剤は大変に有効であるが使用に際しては剤形および薬剤の選択が必要と考えられる。また、過量投与によるトリプタン中毒をさけるため、適切な間歇期薬の選択も重要である。さらに、片頭痛の診断に当たっては充分な問診のうえ、画像診断も併用する必要がある。


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