江戸川区医師会内科系臨床研究会 記録

第71回(平成17年4月27日)

内科診療に役立つめまいの診療

演者:日本医科大学付属第二病院 耳鼻咽喉科
青木 秀治(あおき・ひではる)助教授

<講演会要旨>

 めまいの診療は難しいといわれる。その理由として、耳鼻科を受診するまでに時間がかかることがあげられる。たいていの患者さんはめまいであってもまず内科を受診されてしまう、つまり、耳鼻咽喉科を受診したときにはめまいが消失してしまっていることが多い。異常所見として発見されるべき眼振はめまい発症後早期に消失してしまうため、発作の最中に診察が出来れば診断率はもう少しあがるものと考えられる。

●診断の第一歩
 激しい回転性をともなうめまい発作(vertigo)であれば末梢性の場合が多いが、診断のプロセスとしては、危険性・緊急性のある中枢性めまいを除外する(dizzinessであっても末梢性のことが多い)ことが重要である。また、難聴を伴うめまい(突発性難聴)は耳鼻咽喉科による緊急治療が絶対なのでこれをみきわめる必要がある。

●めまいの種類
(1)良性発作性頭位めまい症
 頭位の変換で回転性のめまいをごく短時間(数十秒程度)生じる。めまいの中では最も多い。再発性がある(1回だけだとまず来院しない)。何回も生じていると起こらなくなる....疲労現象がある。朝起きたときだけということもあり、蝸牛症状がない、自然治癒するなどの特徴がある。治療としてはEpley法(後述)が効果あり。
(2)メニエル病
 30分から数時間。2〜3日を超えることはない。再発性が高く、1回の発作でメニエル病と診断できない。蝸牛症状を伴う。また、発症当座はめまいと共に生じた難聴はめまい消失とともに消退するが、めまいと繰り返しているうちに難治性の難聴をきたす。ストレスが原因のこともある。
(3)めまいを伴う突発性難聴
 原因不明の高度の感音声難聴がいきなり生じる。繰り返すことはない。めまいを伴うのは本症の約半数。難聴の治癒率は30%前後だが、めまいの90%以上は治る。早期(できれば3日以内)に耳鼻科での入院加療が必要なため、時計、音叉等での難聴検査を行い、耳鼻科への紹介を至急行うべき。
(4)前庭神経炎
 病因がよくわかっていないが、上気道感染に引き続くことが多く、ウィルス感染と考えられている。回転性めまい、数日から数週間続く難治性のめまい。裸眼下でも数日間は水平回旋混合性眼振が見られるため、診断が容易。あまり多くない疾患で、耳鼻科でも年間数人しか見ることはない。
(5)中枢性めまい
 めまい全体の5%前後。病因としては小脳出血・梗塞のほか、ワレンベルグ(延髄外側)症候群があげられる。これらは、CTでは小脳出血以外わからないことがあり、MRI緊急検査が必要である。
(6)診断がつかない内耳性めまい
 内耳性であることは間違いないが、上記(1)〜(4)のいずれとも診断不能のケースもある。

●診断方法
(1)問診
 十分な時間をかけて問診する必要がある。問診でわからなければ検査してもわからない場合が多い。その際のチェックポイントとしては、@めまいの性状(グルグルする:vertigoか、フワフワする:dizzinessか)、A誘因(じっとしていて?動いたときに?頭の位置を変えて)B持続時間、C反復性があるか、D随伴症状(蝸牛症状:耳鳴り・難聴・耳閉感の有無)、E既往歴(ストマイの使用・頭部外傷・脳血管障害)などを聞き出す。めまいの患者さんは不定愁訴も多いので見分けが非常に重要である。
(2)眼球運動検査
 裸眼下の検査(注視眼振、初日でも50%程度しかわからない)は初診の内科でもチェックして欲しい。非注視下の検査は道具(@フレンツェルの眼鏡:固視を抑制することができ、発作初日にはほぼ80%眼振が確認できる、A赤外線CCDカメラ:暗所開眼で観察でき、ビデオ保存も可能で、発作初日にはほぼ100%眼振が確認できる)が必要で、末梢性の眼振を発見するのに役立つ。眼球運動は@中枢性の眼振は固視により眼振が増強される、A末梢性の眼振は固視により抑制される、という原則がある。末梢性では定方向性水平回旋混合性眼振だが、ひどい時期にしか見られないことが多く、数日経った時点では1方向のみ水平性眼振が残っているだけということがある。中枢性の小脳・脳幹障害では注視方向性眼振が見られる。ワレンベルグ症候群の場合には純回旋性注視眼振が見られる。

●専門医に紹介すべきめまい
 蝸牛症状を伴うもの、裸眼下で眼振を認めるものはまず耳鼻科へ。また、神経症状・頭痛を伴うものは神経内科・脳外科へ紹介を。

●Epley法による良性発作性頭位めまい症の治療
 アメリカの開業医・Epleyが開発した理学的治療法である。良性発作性頭位めまい症:半規管結石症のうち後半規管型に有効といわれる。卵形嚢の耳石基から後半規管に遊離した耳石を卵形嚢に復旧させるテクニックである。本法を行うにはどちらの耳が原因かを特定しなくてはならない。懸垂頭位で反時計回転であれば右半規管が病巣(できれば非注視下で)と考えられる。右45度を向かせるとちょうど右半規管が垂直位になる(図1B)。ここから逆方向の左45度を向かせ(図1C)、さらにここから一頑張りで頭と体の位置関係をそのままにして左下45度まで体位を変えさせて(図1D、Bから180度反対を向くことになる)耳石を誘導し、起きあがらせて卵形嚢へもどす。私たちはフレンツェル眼鏡をかけさせて実施している。患側の決定が重要で、著効例は1回の手技でおさまる。
 本法の治療成績は約80%が治癒するといわれているが、コントロールスタディはあまりない。薬物療法と比較すると治療2週後の有効率は薬物療法で30%に過ぎないところ、Epley法では86%と高く、また、治療にかかる日数で比較した場合、薬物療法で76日かかるところがEpley法で20日で治癒した、という報告もある。ただし、高齢者ではかなり頚部捻転をしなければならないため骨の問題で実施不可能な場合があり、またかなりひどいめまいがしている場合にはこうした治療に理解のある人しか実施できない場合がある。


<質疑応答>

▼当医師会の「センターニュース」にて「めまいのうち椎骨脳底動脈循環不全が見逃されていることが多い」との記述があったのですが先生のご見解は?
青木「確かにその通り。Retrospectiveに考えれば、小脳領域のTIAとして生じていたということがありうる。MRIやMRAだけでなく脳血流検査が必要な場合もある。」

▼「ふらつき」で現れた患者さんがめまいかどうかを判断する方法は?
青木「非注視下眼振をぜひ見て欲しい、めまいと言う感覚は人ごとで異なるが、眼振の有無を見ないと診断はつかない。逆に、内耳性めまいが起こった後には比較的長期間ふらつきを訴えることがある。」

▼眼振のチェック方法は?かなり横の方までおこなうとどの症例でもでてしまう、いわゆる「ニスタグモイド」を「ニスタグムス」と判断してはいけないともいわれますが。
青木「注視眼振は正面から30度までが原則です。」

▼メニエール病でストレスから来る場合、どのように判断するか?
青木「経験的にみるしかない、それなりの治療や環境の改善で劇的に良くなる場合もある。純粋にpsychologicalな場合は鑑別は今日ご説明した診断法で可能だと思います。現在めまいがあるというのに眼振がないとするならばpsychologicalなものと判断して差し支えない。」

▼めまいを伴う突発性難聴とメニエル病の鑑別は?とても似ているように思えるが。
青木「繰り返しの有無がいちばん重要です。蝸牛症状は両者ともあるがメニエル病は低音部の難聴のみだが突発性難聴では高度の難聴が認められる。」

▼Epley法は耳鼻科ではどこでもやってくれるのか?
青木「耳鼻科医でもめまいの見られるドクターは約半分。さらに、本法はまだあまり一般的でないため、どこでも、というわけにはいかない。」

▼Epley法はめまい発作の間歇期に行って次の発作を予防できるか。
青木「この方法はあくまでも耳石を元に戻すだけなので予防効果はない。」

▼良性発作性頭位めまい症の場合、細かい結石ならかえってめまいを起こしてしまった方がよい、という意見もあるようですが。
青木「じっとしているよりは確かに動いてしまった方が耳石が粉々になって偶然になおることがあります。ただし、Epley法は解剖学的な構造に従って耳石を誘導しようとするわけで、ちょっと本質は異なっている。一般的にはめまいに絶えてじっとしている場合、下にしている方が患側である場合が多い。とにかくやってしまっても悪化することはないので一度やってみるとよい。ただ、できれば患者さんが大変なのでできれば一発でなおせるよう、患側をよく見きわめてあげた方がよろしい。」

▼めまいの患者さんに各種抗めまい薬を一度に出されるドクターがおられますがいかがでしょうか。また、メイロンの静注は本当に効果があるのでしょうか。
青木「あくまで薬物療法はめまいをなくすことはできないが、めまいを軽くすることは出来るので、飲むかどうかを患者さんにうかがうようにしている。BPPVには薬剤は効かない。また、メイロンは薄めずに使うように言われているが、エビデンスはない。」

▼耳鼻科領域でもない、脳神経外科的領域でもない、というめまいはありうるものでしょうか。
青木「肩こりと内耳には関連がある場合があるといわれている。肩をマッサージされると眼振が生じる、いわゆる痙性めまいというものがある。詳細はまだ解明されていない。」

(文責:目々澤 肇)


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